今回はFiiOのデジタル・オーディオ・プレーヤー「FiiO X7」をレビューしてみたいと思います。FiiOと言えば中国のポータブル・オーディオブランドで、本社は広州市にあります。DAPを中心に日本でもいくつかの製品を発売していますが、FiiO X7は価格的にもブランドのフラグシップ・モデルとして登場した製品でした。
DAC部にESS ES9018Sを搭載し、着脱可能なアンプモジュールを採用、OSはAndroidなので音楽ストリーミングサービスであるSpotify、Apple Musicなども使える、音質以外の部分でもわりと万能DAPだったりもします。
現在は後継モデルであるFiiO X7 MKIIも発売されているのですが、泥DAPかつ高音質設計という点で初代モデルで十分使い倒せるので、少しだけ所感などメモしておきます。
FiiO X7 レビュー
FiiOと言えば広東省を本拠に構える中国のオーディオブランドで、DAPを中心にいくつか注目の製品を開発・販売しています。その中でもフラグシップ・DAPとして2015年あたりに登場したのが、この「FiiO X7」です。

FiiO X7
FiiOと言えば日本ではオヤイデ電気が輸入代理店だったのですが、2018年にエミライへ全て移管されました。新しい製品群に関してはエミライが総輸入元と記載のあるページで公開されているのですが、初代FiiO X7に関しては従来のオヤイデ電気の記載があるウェブページになっていたりするので、この辺りはちょっと謎です(ただし2018年2月より”全ての業務を引き継ぎます”とニュースリリースがあるので、おそらく今はエミライが全部やっているんだと思います)。
FiiOは中国ブランドなので、AliExpressなどから直接購入した方が安くなる場合もあったりしますが、技適関連には気をつけておいた方が良いと思います。海外通販が…というかたは普通に日本国内の正規販売店から購入する方が良さそうですが。

FiiO X7 前面

FiiO X7 背面
本体は全体がアルミ素材の筐体で、アンプモジュールとの接続部分は前面が少し空間が設けれられており、ブルーのLEDが見えるようなデザインに。

FiiO X7 青いLEDも少し光り方をカスタマイズできたりします
microSDカードスロットは1基で、Class 10以上が推奨されています。内蔵ストレージは32GB。microSDカードの容量については旧オヤイデ電気のウェブサイトでは最大128GBとなっていますが、エミライのサポートページをみる限りは200GBまで対応しているようです。

microSDカードスロットは1基
最新のファームウェアはFW3.3.0になっており、インストールすることでAndroid 5.1にアップデートが可能となっています。最新のファームウェアではS/PDIFデジタル出力がDoP/D2Pのスイッチ式に変更されていたり、USB-DACモードの遅延改善、BluetoothでAptXに対応したりと結構違いがあります。
アップデートで面白い部分としては、内蔵ストレージ「userdata」格納容量が1GB→2GBに変更されており、サードパーティ製アプリをもう少しインストールしたかった方なんかにもより便利に使えるようになりました。(SpotifyなどはmicroSDカード領域にオフライン再生用データを保存できるぽいので、ストリーミングサービスもアプリによってはそんなに困らないような気はします)

3.5mm COAXIAL/LINE OUT
音源再生のフォーマットはDSDで最大5.6MHzのネイティブ再生に対応しています。WAV、FLACなども対応しておりハイレゾ音源も問題ないですし、AACやMP3といった圧縮音源ファイルの再生も当然サポート。
MQAフォーマットへの対応に関しては、FiiOはあまり積極的でないようですね。FiiO X7 MKIIも対応していないらしいので、もう初代FiiO X7には来ないんだろうと思います。

対応音源ファイルのフォーマット
他社DAPやアンプを見てもファームウェアのアップデートによってMQAをサポートする製品がいくつかあるのでFiiOも対応しようと思えばできそうなものですが、急いで対応させる気は現状ないのでしょう。
ESS ES9018S & アンプ・モジュール
FiiO X7は据え置きDACアンプなどに搭載されることの多い、ESS Technologyの「ESS ES9018S」を採用したことでも話題になりました。後継機のMKIIはESS ES9018PROにアップグレードされていたりもするのですが、とにかくX7シリーズはホームオーディオ向けのESS DACが搭載されているという点が一つ注目の部分です。
8ch DACでS/N比、ダイナミックレンジ、低歪み率などハイエンドDAPという感じに仕上げていますが、消費電力は結構多そうなので、約3,500mAhの大容量バッテリーを搭載しているのもなんとなく納得です。

据置型で搭載されることの多い”ESS ES9018S”をDACに採用
もう一つX7シリーズの面白いところと言えば、アンプ部が交換可能なモジュール・タイプになっている部分。初代FiiO X7にはAM1が同梱されているのですが、2代目のFiiO X7 MKIIではAM3A(3.5mm & 2.5mm)もしくはAM3B(3.5mm & 4.4mm)のアンプ・モジュールが付属します。
他にもライン出力/SPDIF デジタル出力のみを使用するユーザー向けに「AM0」、ミドルパワーでバックグラウンドの静寂感を増した「AM2」、バランス向けの「AM3」、よりハイパワータイプの「AM5」など、イヤホン・ヘッドフォンに合わせてアンプモジュールを交換できるのが魅力の製品となっています。
初代X7に付属している「AM1」は、オペアンプICにOPA1612、バッファーICにAD8397を採用したアンプ・モジュールです。駆動パワーが異なるのでもちろん電池持ちにも関係しており、実はこのAM1が公称9時間駆動と、(ノンアンプタイプのAM0を含めなければ)一番駆動時間が長いです。
アンプ・モジュール | AM1 | AM2 | AM3(3.5mmステレオミニ) | AM3(2.5mmバランス) | AM5 |
---|---|---|---|---|---|
タイプ | スタンダードIEM | ミディアム・パワー | - | バランス | ハイパワー |
出力(16Ω/1KHz) | ≧200 mW | ≧350 mW | ≧250 mW | ≧420 mW | ≧800 mW |
出力(32Ω/1KHz) | ≧100 mW | ≧300 mW | ≧190 mW | ≧540 mW | ≧500 mW |
出力(300Ω/1KHz) | ≧10 mW | ≧30 mW | ≧25 mW | ≧70 mW | ≧55 mW |
S/N比(A-weighted) | ≧115 dB | ≧118 dB | ≧115 dB | ≧115 dB | ≧120 dB |
THD+N(32Ω/1KHz) | <0.0008% | <0.001% | <0.001% | <0.0008% | <0.001% |
チャネルセパレーション | >73dB @32Ω | - | >72dB @32Ω | >110dB @32Ω | - |
オペアンプIC | TI OPA1612 | 新日無 MUSES02 | TI TPA1622 | TI TPA1622 | 新日無 MUSES02 |
バッファーIC | AD AD8397 | TI BUF634 | TI TPA1622 | TI TPA1622 | TI TPA6120A2 |
バッテリー駆動時間 | 約9時間以上 | 約8時間以上 | 約6時間以上 | 約6時間以上 | 約6時間以上 |
(Androidモードでストリーミングなんかを使うと、AM1でもこんなに電池は持ちません)
アンプモジュールごとに特徴が異なるので、どれが良いというよりは「どのイヤホン・ヘッドフォンに合わせて使うか」という部分が重要です。低インピーダンスや感度の高いIEMイヤホンには、付属のAM1推奨。

付属アンプ・モジュールは”AM1″

アンプ・モジュールの取替も簡単です
このアンプ・モジュールは初代FiiO X7と後継モデルのFiiO X7 MKIIで、互換性があるのも良いところです。今までFiiO X7に使っていたアンプモジュールをMKIIに使い回すことができる点では、良いアイデアかつお財布にも的にも優しい製品です(FiiOはもともとお手頃な価格設定の製品が多いです)。

AM3A

AM3B
(FiiO X7 MKIIについてくるAM3AもしくはAM3Bも初代FiiO X7で使える)
FiiO X7シリーズに関して言えばDockの「FiiO DK1」や、同じくドッキングステーションですがハイパワー出力が可能な「FiiO K5」が発売されていたりと(K5は日本で正規取扱なし)、意外と周辺機器・製品も多いです。
アンプ・モジュールがあるのでこれらの製品は必要ない方もいそうですが、アイデア的にはありがたいですし、こういった製品群も価格設定はかなり安めで、FiiOブランド全体の製品がコストパフォーマンスにも優れているのは面白いですね。
Android DAP
FiiO X7本体に話を戻すと、OSはAndroidベース(発売時はAndroid 4.4 Kitkat→最新ファームウェアで5.1)のものを搭載しており、ストリーミング系のアプリをインストールして楽しめるのも良いところです。FiiOブランドでいうとミッドレンジの価格帯となるFiiO X5 3rdなんかも泥DAPなのですが、音質面ではFiiO X7が圧倒的なので、泥OSかつ高音質DAPが欲しい方にも優良な選択肢の1つと言えます(音楽プレーヤーのみを起動するPure Musicモードもあります)。

Pure MusicモードとAndroidモード
Android OS搭載のDAPというところだけで見ると、性能のベースとなるチップはRockchipのRK3188シリーズ(クアッドコアCPU/最大1.4GHz)ですし1GB RAMなので、正直処理性能は高いとは言えません。RockchipのRK3188シリーズはかなり前に発売された28nm製造プロセスのSoCで、2018年に発売されている最新スマートフォンに搭載されているチップセットと比較すると性能はかなり劣るといって良いと思います。※クロック数的に、RK3188でも低クロック版のRK3188Tかもしれませんが、そのあたりはよくわかりません。

Rockchip RK3188
単純なAndroid製品の性能としてはパイオニアのXDP-300R、オンキヨーのDP-X1Aなんかはクアルコム社のSnapdrgaon 800、オンキヨーGRANBEATはSnapdragon 650を搭載していたりするので、これらと比較すると単純な操作性能というのは少し劣ります。
もちろん単純な音楽再生の部分ではRockchipのRK3188でも問題ないのですが、FiiO X7はAndroidモードで利用していると最新のファームウェアでもたまにアプリが落ちたりするわけで、もう少し高速なSoCを搭載して欲しいという気持ちもあります(MKIIではRAMは2GBになりました)。
FiiO X7 MKIIでもRockchipのSoCを搭載している(RK3188で1.4GHz表記なので多分同じチップかとは思うのですが)ので、Android用のSoCとして組み込むノウハウは蓄積されているのかと思いますし、ただ動作を考えるともう少し高速なチップを搭載してくれた方が嬉しいです。…ただそうなると価格はプラスになるはずなので、この辺りの判断は多分FiiOが上手くやっているのでしょう。重要なのは音質ですし。
ディスプレイ・UI・操作性
ディスプレイは約4インチのIPS液晶で、解像度は480×800ドット。スマホの画面と考えると今は小さいですがDAPの液晶と考れば十分なサイズとppiで、タッチ操作も良好。ただ先述のようにSoCがしょぼいのと泥OSバージョンも(泥DAP全般に言えることですが)古いので、音ゲーや動画視聴、その他スマホぽい利用方法は全くもってお勧めできません。

DAPとしては解像度、明るさ共に十分なIPSディスプレイ
個人的に初代FiiO X7からFiiO X7 MKIIに乗り換える気がすすまない理由は、ボリュームキーの部分です。
実は音量調節が初代ではボタン押しだったのですが、2代目のMKIIからボリューム調整がダイアル式と言いますが、X5 3rdのような回す形式のものに変更されました。個人的な使い方のところで音量調節は常にアクティブにしておきたいというか、ロックをかけたくない派なので、この軽いボリュームノブが微妙だなという思いから、MKIIには買い替えずにいます。

初代はボタン式

MKIIはホイール式
初代FiiO X7はシンメトリーなボリュームキー(左)と曲送り・戻しキー(右)を搭載しているのでこちらもポケットに入れたままの操作だと少しわかりにくかったりもするのですが、それでもX7 MKIIのボリュームノブで誤操作するよりはマシとの判断です。(初代FiiO X7はシンメトリーに操作ボタンが配置されているので、本体設定からボタン割り当ての左右入替ができたりするのは面白いです)
音量調節で言えば泥DAPですが120段階で調節できるようにカスタマイズされていますし、ゲインもローとハイの2つがあるので特に問題を感じたことはありません。
操作性の面ですが、「FiiO Music」はぎゅっと詰め込んだUIです。泥DAP搭載のFiiO X5 3rd、X7、X7 MKIIの純正音楽アプリは基本同じアプリなので操作性も同じで、機能も多いのでまずは公式サイトの「FiiO Musicの使用法」を見ておくと分かりやすいと思います。
設定画面では、UIに表示する項目をカスタマイズしたり、いくつかの設定(DoPやスクリーンロック時のアルバムアート表示など)は設定トグルを押すだけですぐに切り替えができます。実はDLNA機能を利用してPC内の曲とかも聴けるんですよね。多機能なアプリです。
アプリの設定画面からだとゲイン切替などいくつかはAndroidの設定画面に飛ばされるのですが、これは上からスワイプして通知センターからすぐ切替OKなので、別に操作性が悪いとは感じません。そもそもゲインは頻繁に切り替えることがないですし。
設定でLock screen album artをオンにすると、画面ロックで起動した時の画面が全画面でアートワーク表示になります。ちょっと不満なのがこれがOFFだと上へスワイプで画面ロックを解除なのですが、なぜかアートワークをロック画面に表示すると横スワイプでの解除になります。この辺りの一部操作は分かりにくいです。
あまり使う機会はないですがイコライザーにもすぐアクセスできたりはするので(ほとんど使いませんが)、通常の操作面で特に不満はありません。アートワークも綺麗に表示されます。
通常のイコライザーとは別にEQ機能のViPER Effectも使えますが、PaypalやWechatでちょびっと課金すると他の機能もViPER Effect内でアンロックして使えます。ただ操作が分かりにくいので、FiiO X5 3rd以降使っていません。
全体的な操作感でいうと、分かりにくいというよりはアプリで使える機能が多いので、操作に迷う、という表現の方が正しいかもしれません。他の泥DAPの音楽アプリだともっと直感的に操作できるのに対し、FiiO Musicアプリは1画面で操作できることを詰め込んである感じがあるので少し窮屈と言いますか。ですので、一度公式サイトの使い方は見ておいた方が良いです。
せっかくのAndroid OSなので、Spotifyなど音楽ストリーミング・アプリもインストールしてみました。友人のFiiO X7 MKIIと比較するとやっぱりRAM容量や最適化のせいか少しもっさりした動作なのですが、音楽を聞くだけなら許容範囲です。
音質:濃い
“解像度を保ちながらも濃い”というのがFiiO X7の第一印象。とにかく濃厚、というわけではなく、制動力に優れながらも芯が一本しっかり通った重さを感じます。どっしりした中低域の存在感を感じるのですが、解像感が後追いでついてくるのでそこまでしつこさが気になりません。
現在はイヤホンでAM1をメインに使っていますが、他のアンプ・モジュールを友人から貸してもらった時も似たような印象でした。濃くて中低域の存在感が先に来るのが、FiiO X7の特徴だと思います。
真逆のDAPというとAK70であるとか、もう少しスッと音が耳に入って来るプレーヤーでしょうか。イヤホンとの組み合わせにもよると思うのですが、多分AK70みたいなプレーヤーをメインに使用している方だと濃厚さというよりはしつこさに感じるようにも思います。逆に言えばAK70系とは異なる音傾向のDAPとして持っておくと楽しいですね。個人的には使い分けて遊んでます。単体でアンプ・モジュールを付け替えて小さなサイズ感でいろんなイヤホン・ヘッドフォンを楽しめるのは強みです。
Chord Mojoと比較してみても、やはりどっしりした芯のある傾向というのはFiiO X7の方が目立ち、中低域の部分にフォーカスしているように思います。Mojoだと中低域にフォーカスされるというよりはどちらにもバランスが良いですし、Mojoの方が中域がもっと美音な感じはします。
フラグシップ・モデルとして発売されただけの解像感というのはついて来るのが流石と思うのですが、そのどっしりした音の傾向から好き嫌いは分かれるだろうなと思うDAP でもあります。
所感
Android OSのDAPというのも意外と少ないですし、アンプ・モジュールを変更するだけでアンプを重ねずとも多くの機器を鳴らせるというアイデアも面白いです。AM3Bが発売されて4.4mmバランスにも対応したり拡張性みたいなところにも積極的なメーカーなので、前回FiiO Q1 MKIIをレビューした時もそうでしたが、FiiOは価格に対して買いたいと思える要素が詰まった製品が多いです。
ただ音だけでいえばブランドでフラグシップに位置付けられる良DAPはたくさんあるわけで、やはり大きな購入要素になりそうなのはアンプ・モジュール、それから泥DAP単体でストリーミングしたい方向けな気もします。個人的にもAndroid OSにこだわらないのであれば、多分買わなかった気がするので。
フラグシップモデルとして発売されたX7シリーズだけあって、やはり解像度は高いです。音傾向が重心低めというか濃厚なので、求めているDAPがこんな感じの傾向であればメインで使う人は多そうなDAPという気がします。