iPhoneで手軽に聴ける高音質のUSB DAC/アンプ、特に持ち運び易い製品を探していたのですが、今回オーディオクエストから発売されている「AudioQuest DragonFly Black」を購入したので、レビューをしてみようと思います。
32bitのESS Sabre DACチップを搭載、サンプリング周波数は最大96kHz/24bitに対応(24bit/192kHzなどはダウンサンプリングで再生可能)している製品ですが、思ったよりも低いノイズと高音質で、何よりiPhoneからデジタルで出力/転送して手軽に高音質を楽しめるUSB DACとしては優秀だったのでメモしておきます。
AudioQuest DragonFly Blackレビュー
AudioQuestといえばオーディオ向けのケーブルなどを開発しているブランドですが、今回レビューするのはUSB DACとして手軽に使える「AudioQuest DragonFly Black」です。
第一世代で無印DragonFlyが発売されたのですが、後継機としてBlackとRedの2種類が発売されました。一応価格としてはRedの方が高級モデルといった位置付けで、Blackはより廉価となっており、1万円台で購入可能です。
DragonFly Blackは以前から気になっていたものの、2018年は左右独立型イヤホンなどワイヤレス関連で色々と確かめてみたいことがあったので購入するタイミングがなかなかありませんでした。今回iPhoneを手軽に高音質化できる製品を探していたので、ようやく購入してしばらく試しています。
iPhone(iOS)、Android OSでの利用要件
DragonFlyシリーズはUSBメモリのような形状をした小型のUSB DAC/AMPで、WindowsやMacなどのPCはもちろん、カメラアダプターを利用したりOTGケーブルを使ってiPhone、Androidスマートフォンにも接続が可能な製品です。
今回はスマートフォンとの接続用途で購入したのですが、OS要件は使用上Apple製品でiOS 5以上、Android OSで4.1以上の端末で使えるそうです。利用しているのは最新のiPhone XS Maxですが、問題なく使えています。
Androidの場合、OS要件を満たしていれば、あとはUSB経由でのオーディオ出力をAndroid端末がサポートしていれば使えます。別途アプリを用意すると、対応しているかのチェックができるみたいです。
手持ちのAndroidスマートフォンはOTG対応、USBオーディオ出力にも対応しているので、普通にOTGケーブル(変換アダプタ)を経由することでDragonFly Blackに接続することができました。端末によっては対応していないものが意外とあるみたいで、Androidで利用予定ならまずは動作するか購入前に確認するのが良さそう。
ノイズに関してもいくつかインターネット上に書き込みがあったので気になってはいたのですが、Android端末と接続をした場合だと機種によっては気づきました。iOS端末(iPhone、iPad)に関しては問題なかったので、個人的にはiOS端末用のUSB DACとしておすすめしたいところです。
Windows、MacOSでの利用
Windows OSやMacOSに対応しています。Windowsは7、8.1、10に対応、MacOSはOS X 10.6.8以降をサポートしているとのこと。筆者はMacbook Proをメインに使っていますが、問題なく動作しました。基本的にドライバーのイントールなども不要です。
USBバスパワー充電/給電
AudioQuest DragonFly Blackは個別に充電が不要でUSBバスパワー駆動が可能なので、iPhone XS Max -> Apple純正カメラアダプター -> DragonFly Blackの順に差しっぱなしでも、USB DAC側は電池切れの心配がありません。もちろんバスパワー給電を行うiPhone側の電池は減りが早くなるのですが、終日利用でも十分使えました(XS Maxの電池持ちは十分良いこともあって、終日使っても問題ありません。つまるところスマホ側のバッテリーや電池持ち次第かと)。
そのためDragonFly Black本体の充電は必要なし、USBメモリサイズでカメラアダプターにつなげるだけで使えるということもあって、小型のDAPを持ち運ぶよりも荷物は減り、iPhone用の外出ポータブルオーディオセットアップとしては非常に便利な製品です。
ESS9010 32bit DACチップ
DragonFly Black 内蔵のDACチップにはESS 9010を採用。RedにはESS 9016が採用されているので、この辺りでもグレード分けがされているようですね。もちろん音質は好みの問題なので、Blackが好きな人もいるでしょうし、Redが好きな方もいるかもしれません(筆者はBlack派です)。
再生の最大サンプリング周波数は96kHz/24bitとなっており、これはこれまでのDragonFly v1.2、そしてDragonFly Redも同様です。例えば192kHz/24bitの音源を再生すると、最大の96kHz/24bitにダウンサンプリングされる仕様だそうな。
音質的には(この設計のDragonFly Blackに限っては)96kHz/24bitにダウンサンプリング処理をした方がDACサウンドが向上する、というのがAudioQuestの主張ですが、実際のところはどうかわかりません。個人的には最終的な音が好きかどうかでしか判断していないのですが、音源や別の製品と出音の傾向を比較してみるのは面白いかもしれません。
Blackのアンプ部、ボリュームコントロールに関してはv1.2と同じヘッドフォンアンプとアナログボリュームコントロールを搭載。Redはまた別のアンプrやデジタルボリュームで、Redの方が出力も高く(Black1.2V, Red 2.1V)、低効率ヘッドフォンのドライブ用なら公式曰くRedの方がオススメだそう。筆者はポータブル利用でIEMイヤホンしか使わないので、あまり気にしていない部分です。
ちなみにDragonFly v1.2に搭載されていたマイクロコントローラーよりも77%の消費電力を抑えたMicroChip PIC32MXが採用されています。
DragonFly(トンボ)のLED表示
- 赤LED:スタンバイ状態
- 緑LED:44100.0Hz
- 青LED:48000.0Hz
- アンバーLED:88200.0 Hz
- マゼンタLED:96000.0 Hz
トンボ部分のLEDライトは、サンプリングレートによって異なる色が表示される仕様で、例えば44.1kHz/24bitの場合は再生中グリーンにLEDが光り、96kHz音源の再生であればマゼンタ(赤紫)色に光ります。
mora(モーラ)内でいくつか音源の再生を試してみたのですが、例えばFLAC 96.0kHz/24bit音源であればマゼンタ色に光ります。…192kHz/24bit音源を再生すると(96kHz/24bitダウンサンプリングされて再生されるはずですが)色がマゼンタになったあとブルーに切り替わるなどよくわからない挙動もありますが、これが正しい仕様かは不明です。ちなみに他のアプリで192kHz/24bitの音源を再生すると96kHzにダウンサンプリングされたLED表示になったので、もしかするとmora playerとの相性の問題だけなのかもしれません。
追記:moraに問い合わせてみたところ、iOSのmora playerでは「音源のサンプリングレートよりDACの最大再生可能サンプリングレートが低い場合は、48kHzで再生される」仕様だそうです。つまりアプリ仕様でのLED表示だったみたいです。
ソフトウェアの更新をしてもmora playerのみは表示が変わらずなので謎ですが、サンプリング周波数でLED表示が変わる仕組みは面白いです。Chord Mojoみたいですね。
ファームウェアのアップデート
Windows、MacOSのパソコンからソフトウェアをダウンロードして、アプリを起動することでファームウェアのアップデートが可能です。v1.2のDragonFlyは対応していなかったのですが、DragonFly BlackとRedに関してはソフトウェアの更新OK。
iPhoneとの組み合わせでの音量調節について
コンパクトでiPhoneとの組み合わせには非常に便利なUSB DACなのですが、もう少し大型のDACアンプと比較すると少し気になる部分もあります。
というのも、MojoなどDACアンプ本体にボリューム変更機能ボタン・機能が付いている製品ならアンプを通して細かくDACアンプ側で音量調節ができたりするのですが、DragonFly BlackとiPhoneの組み合わせでは、音量調節はiPhoneで直接行うことになります。そのため、音量を細かく調整する部分は外せない、という方はポータブルのDAPや別途DACアンプを持ち運んだほうが良い気がしますね。
DragonFly Blackに関しては本体サイズのコンパクトさ、持ち運びやすさが最大の特徴だと思っているので、この辺りをメインに考えている方は妥協できるのではないでしょうか。筆者個人としては問題なしです。
というのも、今回は極力小さなUSB DACアンプを探していたので、持ち運ぶガジェットが増えない、というのが最優先なわけです。例えばFiiO Q1 MKIIなんかはポタアン側のボリュームノブで音量調整ができるのですが、あれくらいの大きさになってしまうとiPhoneと重ねる必要は出てくるわけで、そうすると今度はiPhoneがスマホとして使いにくくなってしまうんですよね。そういった部分も含めて、DragonFly Black側で細かく音量調節ができない点は、そんなにデメリットに感じなかったりするのです(もちろん使っていると少し不満ですが、それでもコンパクトさを重視すると妥協点が生まれるような気がします)。
イヤホン・ヘッドフォンに直接つなぐ際にはあらかじめボリュームを絞ってから調整が推奨されています。IEMなんかだと爆音になる可能性もあるので、筆者も音量は限りなく0に近づけてから徐々に大きくしていきます。
またLINE OUT(LINE出力)で外部のプリメインアンプやレシーバーに固定出力もでき、その場合は外部アンプ側でボリューム調整ができる仕様だそうですが、今回はあくまで「iPhoneでコンパクトに使えるUSB DACアンプ」という点を重視しているので無評価。
DragonFly v1.2、Redとの違い
Redとの大きな違いは出力、DACチップ、ボリュームコントロールなど。実際に店頭で聴き比べする機会もあったのですが、やはり低能率のヘッドフォンはRedで駆動させたほうが芯があったような気がします。
モデル | DragonFly (v1.2) | DragonFly Black | DragonFly Red |
---|---|---|---|
サンプリング周波数 | 96kHz/24bit | 96kHz/24bit | 96kHz/24bit |
出力 | 1.8V | 1.2V | 2.1V |
マイクロコントローラ | TI1020B | MicroChip PIC32MX | MicroChip PIC32MX |
DACチップ | ESS9023 24BIT | ESS9010 32BIT | ESS9016 32BIT |
ボリュームコントロール | アナログ | アナログ | デジタル |
スマホとの互換性 | × | Apple(iOS5以上) Andorid(4.1以上) | Apple(iOS5以上) Andorid(4.1以上) |
ソフトウェア更新 | × | PCからAQデスクトップアプリ経由で | PCからAQデスクトップアプリ経由で |
ただしハイエンドの低効率ヘッドフォンを利用している方はDAC/アンプ部分も据え置き、もしくはポータブルでも他の製品を持っている方がいそうな気がするので、あくまで利用の手軽さとコンパクトなサイズ感を求める場合におすすめしたい製品です。
ちなみにBlack、Redに関してはアップデートでMQAファイルの再生に対応しているんですよね。以前TIDALを契約してみたのですが今は使っていないので試せていませんが、この辺りの音源と再生ソフトがある方はまた面白いかと。
AudioQuest DragonFly Blackの音質
- iPhone XS Max
- moraプレーヤー 44.1kHz/16bit, 24bit、96kHz/24bit、192kHz/24bit FLACファイル、Spotify Premium(320Kbps)
- Apple純正カメラアダプター
- AudioQuest DragonFly Black
- FiiO F9, FiiO FH1, AAW A2H, その他
今回はプレーヤーがiPhone XS Max、音源はmoraからダウンロードした44.1KHz/16bit〜192kHz/24bitのFLACファイルでそのままmoreミュージックプレーヤーから再生し、ストリーミングはSotify Premiumのアカウントで320Kbps最高音質設定で聴いています。IEMのイヤホンは最近購入したFiiO F9などを中心に、コストパフォーマンスにもそこそこ優れた(外で乱暴に扱っても値段的に怖くない)モデルを用意しました。
USBメモリ級に小さい筐体なので心配していたのですが、解像度はサイズ感を考えると十分です。FiiO F9、FH1はApple純正のドングル経由でも十分音が良く鳴らしやすいのですが、DragonFly Blackを通すと、Lightningドングルで聴いていた時の輪郭の少しぼやける感じがなくなって引き締まり、特に女性ボーカルが聴きやすくなった印象。
ただ現在利用している外用DAPや据え置きUSB DACと比較すると音量を上げていったところで音が滲む部分もありますし、高インピーダンスの開放型ヘッドフォンなんかと比較するとパワー不足か鳴らせてない印象も拭えないところがあり。個人的にはそんなに鳴らしにくくないIEMやヘッドフォン用といった感じで、あくまでポータブルの利便性を必要とするとき、例えば近所のカフェに出かける時、iPhone意外にあまり持ち運びたくない時などに使うことが多いです。
AudioQuest DragonFly Blackの良さなど
(良いところ)
- DAPやポータブルDACアンプを持ち運ぶよりも、ずっとコンパクト
- スマホからストリーミング&高音質
- シンプルで使い易い
- ドングル音質からの解放
- 1万円台で手の出しやすい価格設定
(気になるところ)
- 音質だけならFiiO M9のほうが良い気がする
- iPhone接続時の音量調節
現在外出用のポータブル環境はFiiO M9かAudioQuest DragonFly Blackを利用しているのですが、筆者個人的な感覚で言えば全体的な音質を考えればFiiO M9のほうが優秀な気がします。2.5mm4極端子のバランス接続/出力もできますし、音量調節は楽ですし、ストリーミングも同じくできますし、単純に音もFiiO M9のほうが良いと感じます。
ただしDragonFly Blackは、カメラアダプターさえ用意してしまえば持ち物が増えない点、iPhone本体から手軽にストリーミングや、最大96kHz/24bitでFLAC音源などを再生できる点などを考えると、ポータブル用途での利便性はグッド。もちろん据え置き利用で3万円以上の複合機クラスになるとパワーも音質も敵わない気がするので「スマホでデジタル出力での出音向上」目的がやはりメインになりそうなかな、という気が。
USBバスパワーで充電不要な部分も良いですが、その分iPhoneのバッテリーを消費したりはしますし、どちらも一長一短。個人的には音質でFiiO M9、手軽さならAudioQuest DragonFly Blackを選びます。…どちらも音は良く価格も安いので、ポータブルオーディオ製品としては持ち運び性能も重視するならおすすめですね。